新海誠監督の作品を観るのは、『秒速5センチメートル』に次いで2作目です。
『星を追う子ども』みどころ
新海誠監督、2011年公開。音楽は『秒速5センチメートル』と同じく、天門さんです。
風景、特に空が美しい
風景描写、特に空の描写、その中でも星空の絵がすばらしく美しかったです。
『秒速5センチメートル』にも出てきたような美しい構図の場面があり、新海誠監督の好きな構図なんだなあと思いました。美しくて、ロマンチックですてきです。
夜空で世界の違いを見せるという手法がおもしろかったです。
地下世界の空には星がなく、オーロラが美しくて、地上世界と、地下世界の願いが叶う場所の夜空は満天の星空でした。
王道ファンタジー
現実で困難を抱えるこどもが異世界に行って冒険し、成長して、現実世界と折り合いをつけて現実に戻る、というこどもが主人公のファンタジーの王道を行く物語でした。
繊細さが魅力
『秒速5センチメートル』とは違ってファンタジーの冒険譚なのですが、同じく繊細さが魅力でした。
冒頭からジブリ作品を連想させるような絵や要素がたくさんありましたが、良い意味で説明不足な感じと繊細さが特徴で、一度見終わった後にもう一度観て、いろいろ確認したくなります。
テーマは大切な人の死、というかむしろそれはアクセントで、テーマではないかもしれません。
主要な登場人物はみんな、父、妻、夫、兄といった大切な家族を亡くしています。
そのテーマにがっつり向き合ったら、あんなにきれいなものは出てこないと思うけど、新海誠監督はまた違うのかな。
テーマはむしろ、人と人との距離かも。
受け取り方は自由ですね。
かなしみと喜びが繊細に描かれています。
繊細でロマンチックなセリフがいくつかあり、心に触れました。
『星を追う子ども』あらすじ(ネタバレ)
次のような副題がついています。
Children who Chase Lost Voices from Deep Below
ファンタジーで、主人公の小学生、アスナが地下世界に行って帰ってくるというお話です。
地下世界では死者をよみがえらせることができると学校の先生(森崎)に聞いて、出会って幾日も経たないうちに死んでしまった男の子が生きていて欲しいあまり、アスナは先生と一緒に地下世界に入ります。
先生は10年前に病気で亡くした妻を生き返らせるために、地下世界の英知を手に入れようと求める秘密結社の一員として活動しています。
先生は、妻の生前は傭兵としての戦闘経験があり、そのことが地下世界での戦いができることの説明となっています。
アスナの父は幼少期に亡くなっており、アスナの母は看護師として長時間働き、一人でアスナを育てています。母はアスナには優しく、娘を愛していることがうかがえます。
アスナはまだ小学生であるにもかかわらず、料理などの家事を自分でこなす毎日で、学校でも学級委員長かつ成績1位の優等生で、気持ちを抑えて少し無理をしている感じの子です。
そんなアスナには、田舎住まいならではの秘密基地があります。山の中腹の崖で、中には防空壕の跡地みたいなスペースがあります。その崖の上で、サンドイッチを食べながらお手製のラジオを聴くのが楽しみです。また、野良猫のミミがなついていて、アスナもかわいがっています。
このラジオがファンタジーで、亡き父の形見の鉱石を使います。ある時、聞いたことのないような不思議な音楽が聞こえ、心が揺さぶられたのでした。
そんなある日、アスナは鉄橋の線路の上で、怪物に襲われそうになり、胸に鉱石をぶら下げた見知らぬ男の子に助けられます。
僕はきっと 君に会いに来たんだ。
と、男の子の独白。
彼は「この山にはもう来ない方がいい」と行って去っていき、ミミがついて行きます。
翌日。
怪物の死骸には若木が生え、結晶化している部分もあります。
アスナが思い切ってもう一度山に行くと、そこには昨日の男の子がいて、「シュン」と名乗ります。
シュンの傷の手当てをして、一緒にラジオを聴きながらサンドイッチを頬張ります。
そして、一度不思議な音楽を聴いたことがあるという話をします。
まるで誰かの心がそのまま音になったみたいで。あの時、幸せと悲しみが一緒にやって来て、私は一人きりじゃないんだって思えたの。
シュンは、
アガルタという遠い場所から来た。 どうしても見たかったもの、どうしても会いたかった人がいた。 でも思い残すことは何もない。
と言います。
アスナ、祝福をあげる。
と言って、額にキスして、
アスナ、ただ、君に生きていてほしい、それだけでいいんだ。
と言いますが、アスナは照れまくって、「また明日」と2回言って帰っていきます。
あの子だったんだ、最期の歌を聴いてくれていたのは。
(膝の上の猫、ミミに向かって)ミミって言ったね。アスナをよき場所に導いてあげてほしい。
今になって、たまらなく怖いんだ。でも同じくらい幸せでもある。
(星に向かって)手が届きそうだ。
崖から転落して亡くなります。
アスナは、森崎先生から地下世界アガルタの成り立ちと、そこにはあらゆる願いが叶う場所があるということを聞きます。
帰り道、ミミに導かれて山に行くと、シュンにそっくりの男の子がいて、「あいつはもういない。起きたことはすべて忘れろ。」と言いますが、突然ヘリコプターと武装した兵士たちに攻撃され、二人で逃げます。
その男の子(シン)はシュンの弟で、鉱石(クラビス)を取り戻すために地上にやってきたのでした。
シンはアスナに地上に帰るように言いますが、アスナを成り行きで助けているうちに、結局シンとアスナ、森崎の三人で地下世界アガルタに入ってしまいます。
ここまでの伏線が重要なので、細かく記しました。アガルタでの冒険で伏線が回収される感じです。
ミミは実は神獣で、役割を終えると死んで不思議な生き物に食べられます。
その生き物も死期が近づくと、あらゆる願い事がかなえられる場所のある大きな淵の傍らで最期の歌を歌って、淵に身を投げて死にます。
アガルタは地上世界からの度重なる侵攻によって滅びゆく世界で、地上世界からの旅人は歓迎されません。
シュンとシンの兄弟は、地下世界の人と地上世界の人のハーフであることが明かされます。
そのため彼らは、生まれ育った地下世界に居場所がない思いをしています。
アスナも居場所がなく、ここではない別のところへの憧れを抱えており、シンと心通じるものがありました。
シュンは死期が迫ったので、禁忌をおかして地上世界にやって来て、そこで生を終えたようです。
森崎はついにあらゆる願いが叶えられる場所に到達し、「カミ」に妻の
よみがえりを願います。
「カミ」に身代わりの肉体を要求され、折悪しくやってきたアスナを涙を呑んで差し出します。それでも足りないと言われ、自分の片目を差し出します。アスナが森崎の妻(リサ)になっていまいます。
シンがアスナを助けようとクラビスを必死で叩き割り、リサはアスナに戻ります。
その直前、アスナは幻の中で、リサが亡くなった部屋におり、そこには亡くなったシュンとミミがいて、シュンに別れを告げます。
亡き妻が生き返る望みがなくなってしまった森崎はシンに自分を殺せと頼みますが、
喪失を抱えてなお生きろ
という「カミ」の声が聞こえただろうと言うシン。
それが人に与えられた呪いだ。
アスナが起き上がって優しく森崎の首を抱き、
でもきっと、それは祝福でもあるんだと思う。
ここで、主題歌が流れます。
三人は仲良く旅をし、地上世界の入り口にたどり着きます。
シンはアスナにアスナの父の形見のクラビスを返し、アスナは一人、地上世界に戻っていきます。
まとめ
今回は、『秒速5センチメートル』に続いて『星を追う子ども』を観たわけですが、『秒速5センチメートル』の方が琴線に触れました。
でも、別の作品も観よう!と思わされる魅力がありました。
シュンが最期にアスナに言うセリフは、最初見た時には聞き流してしまいましたが、見返してみると、遺言そのものでした。
ミミの亡骸を食べる生き物を見て、恩田陸の『七月に流れる花 (ミステリーランド)』と『八月は冷たい城 (ミステリーランド)』に登場する「夏の人(みどりおとこ)」を連想してしまいました。生き物の命の循環を表しているのでしょうか。
また、クラビス(鉱石)を見るたびに、ラピュタの「飛行石」と頭の中で言ってしまいました。クラビスは、地下世界への鍵であり、あらゆる願いを叶えてもらうためのドラゴンボールみたいなもののようです。
「神の舟」の古代神話的なビジュアルも気に入りました。「カミ」は全身に目があり、地下世界には目のモチーフがたくさんあるのも、おもしろかったです。
見終わっても、謎が残されました。
アスナの父はなぜクラビスのような重大なものを持っていたのか。
シュンとシンの兄弟の両親が、地上世界の人と地下世界の人であるいきさつ。
彼らの両親とアスナの父は、何か関わりがあったのか。
小説版を読めば謎は明かされるのでしょうか。それとも、私が単純に見落としてるだけ?