森博嗣〈百年シリーズ〉3部作の2作目です。
主人公のミチル(職業はエンジニアリング・ライター)が、パートナーであるアンドロイドのロイディと、閉ざされた不思議な街におもむき、殺人事件に巻き込まれる、という設定は、1作目の 『女王の百年密室』と共通しています。
『女王の百年密室』との比較
街がより魅力的
モデルがモンサンミッシェルということで、街や建物の造形が、より魅力的です。
私みたいな、視覚的想像力に欠ける人間にとっては、描写されている街や建物をビジュアル的に想像するのが大変です。
でも、モンサンミッシェルを頭に思い浮かべればいいので、参照先があるという意味では、舞台を思い描きやすいです。
読み終わった後、YouTubeでモンサンミッシェルを確認してしまいました。
よりアクションシーンが多い
『女王の百年密室』でもアクションシーンがありましたが、今回はより多くて、スリリングです。
ミステリー要素がより不可解
犯人とその動機が、明かされる直前まで絶対にわからないです。
ミステリーというジャンルの王道においては、読者がよく注意して読んで、よく考えたらわかるように作られているものですが、『迷宮百年の睡魔』では、違います。
『『女王の百年密室』もそうですが、純粋にSFなのです。
よりSF度が高い
ある謎が完全に説明されるのですが、専門的過ぎて、全然わかりませんでした。
例えるならば、飛行機が飛ぶメカニズムを、専門用語を使って説明されたような感じです。(私は文学部出身で・・・)
あれを読んで、「なるほどー!」と思える人が羨ましいです。
中心的な謎についても、一度読んだだけではあんまりわかった感じがせず、翌日もう一度ゆっくり読んでようやく、「あ~、なるほどそういう設定なのかー」と思いました。
と同時に、新たな疑問が沸き起こり、それはきっと3作目『赤目姫の潮解』で明かされるに違いない!絶対に読まなければ!と心がはやりました。
パートナーのアンドロイド、ロイディが進化している!
ロイディの言動が、より人間に近くなっています。
ミチルのロイディに対する愛着もアップしていて、ミチルが一方的にロイディに対していろいろ思ったり、感じたり、言ったりする様子がおもしろいです。
相手はアンドロイドで、感情や情緒はないはずなのですが、ミチルはロイディが「ドライだ」とか、「冷たい」とか、「さっきまで弱気だったくせに、ロイディ、ずいぶん自信家になったね」と言ってみたり、「優しい」と思ったりもします。
『迷宮百年の睡魔』のおもしろさ
SF的疑問が発生するのが、おもしろいところです。
現在ではまったく疑問の余地なく、問題にならないことが、科学技術が発展すると、そうではなくなってきます。
人間って何?
アンドロイドがどんどん人間に近づいてきたら、人間とアンドロイドの違いって何なんだろう?
このテーマは 「Wシリーズ」で詳しく展開されていて、とてもおもしろいです。
「生きている」ってどういうこと?
「生きている」、「死んでいる」って、体と脳がいったい、どうなってどうなっている状態なの?
昔は脳死は死か?という問題が発生する条件がなかったのですが、医療の進歩によって、議論が起こり、今は一応の社会的合意に達したのか、以前ほど議論されることもなくなったような気がします。
さらに科学が発展すると、さらなる新しい疑問が出現します。
SFの世界です。
哲学とSFって、近いのかな?
相棒物の楽しさ
ミチルとロイディの関係性と、その変化を楽しむことができます。
関係の種類は別ですが、 「S&Mシリーズ」 の犀川助教授と萌絵の関係を思い出します。
おわりに
読み始めた時にはまったく想像もしなかった世界に連れて行かれました。
大満足です。
小説を読む醍醐味、別世界への没頭を味わわせていただきました。