記憶と幸福の微妙な関係 ~ カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

忘れられた巨人

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カズオ・イシグロの本を読んでえらい目にあったはずなのに、懲りずに新作を読んでしまったわけ

『わたしたちが孤児だった頃』を読んだ時、作者のカズオ・イシグロという人は何といじわるなんだろうとどん引きしました。 性格がねじまがっているんじゃないかと思いました。

内容そのものはほとんど覚えていないのですが、結末がまさかの内容でした。まったく予定調和というものがありませんでした。 手法としては探偵小説なのですが、明らかになった現実は非常に残酷なものでした。後味がものすごく悪かった事をおぼえています。

前回そんな目にあったのになんでまた性懲りもなく同じ作者の小説を読もうと思ったのかと言うと、小説の出来としては素晴らしかったからです。小説家としては一流だと思いました。ただ、内容が・・・。

にもかかわらず図書館でカズオ・イシグロの新作を見た時、ついつい借りてしまいました。

今度は愕然としないように、カズオ・イシグロにしてやられないように、心して読もうと思いました。

身構えながら読み始めました。

カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』あらすじ

The Buried Giant (English Edition)

小説の枠組みと前提

ファンタジー時代小説の枠組みでいってます。

舞台はアーサー王亡き後のイングランド
アーサー王伝説を前提としているので、一応ファンタジーです。
アーサー王伝説を知らなくても、配下に魔術師マーリンがいたことぐらいを一応把握してれば大丈夫です。

ストーリー

主人公は老夫婦
なぜか村全体で隠れるように暮らしていて、しかもその村の中でも微妙に虐げられているようです。

この老夫婦はある時、離れた村に住んでいる息子に会うために村を離れることを決意します。

きっかけは、何かがおかしいことに気づいたこと。何がおかしいかというと、昔の記憶がほとんどまったくないのです。少し前にあったことも簡単に忘れてしまいます。なんと村人全員がそうなのです。というか、この老夫婦はそのことに気づいただけまだマシで、 ほかの村人はもっと物忘れが激しいのです。

ある時村に立ち寄った女性から衝撃の話を聞きます。

この女性は、夫と一緒にあるに渡ろうとしたのですが、島に渡る船の船頭のせいでなぜか夫だけ島に渡ってしまい、女性は取り残されてしまったと言うのです。 船頭が、このカップルは深い愛で結ばれていると判断しないと、夫婦一緒に島に渡ることも、島で二人で暮らすこともできないのです。その島では、人々はお互いの気配を感じることはあっても、出会うことがないといいます。

この女性の話を聞いて、老夫婦の妻の方が思います。私たちもいつかそのような島に渡ることがあるかもしれない。その時に、夫婦の思い出が何もないのにどうやって深い愛を証明することができるだろうか。だから私たち夫婦は記憶を取り戻さなければならない。そのためにはまず、息子を訪ねなければならない。

こうして村を出た老夫婦は、色々あって皆の記憶が失われている理由を知り、徐々に自分達夫婦の過去をも思い出します他の登場人物も物語に重要な役割を果たします。
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そして、ついにあの島に・・・。そして他の登場人物たちは・・・。

ネタバレになる部分ははしょりましたが、内容はこういう感じです。

カズオ・イシグロはやはりうまい作家だった

すっきりしないけどおもしろかった

なんだか霞がかかったように記憶を失っている様子の描写が非常に巧みです。曖昧模糊としていて、なんか思い出せそうなんだけど思い出せない雰囲気の描き方が秀逸です。さすがカズオ・イシグロ。

読者の予想の裏切り方もお見事です。やっぱり現実はそういうもの、という内容もあります。

忘れた方が幸せなのか。個人の記憶、民族の記憶。忘れた方が良いことだけ忘れて、良い思い出だけ選択的に残しておくということはできない。辛い記憶を思い出しても、忘れていたあいだに築いた二人の幸せな関係を無にはしないという決意。

カズオ・イシグロ略歴

作者のカズオ・イシグロ1954年長崎で生まれ5才の時からイギリス在住イギリス国籍を取得しています。

数々の文学賞を受賞し、1989年には『日の名残り』でイギリスでもっとも権威あるブッカー賞を受賞。映画化されてます。

イギリスとアメリカでベストセラーになった2005年の『私を離さないで』は、映画化ドラマ化されています。

『私を離さないで』の原作は読んだことがあるような、ないような、映画は見たことがあるような、ないような。『忘れられた巨人』ばりに記憶があいまいです。

ドラマは2016年の冬に放映されていたようですが、見ていません。先月放映が終わったばかりなので、記憶は確かです(笑)

Never Let Me Go

次の作品が出たらまた読んでしまいそうです。