20代から母一人子一人で介護に向き合ってきた著者、酒井 穣氏
著者は、20代の頃から20年以上、母親の介護をしつつも、自らのキャリアを継続してきた方です。
2016年に、介護離職を防止することを目的とした企業、株式会社リクシスを創業。
そこに至るまでの状況が、次のように紹介されています。
母子家庭の一人っ子として育ち、母親は精神疾患を患っていた。
大学進学とともに一人暮らしを始める。母親も一人暮らしとなり、精神疾患が悪化し、入退院を繰り返す。
新卒で、母親の介護を秘密にしつつ国内企業に勤務。
母親の介護費用を稼ぐために、27歳でオランダにエンジニアとして転職、移住。
大変な時は、毎月日本に帰国して介護。
ちょっとした地獄でした。
オランダでの仕事を離れて日本に帰国、株式会社フリービットの取締役になり、その後独立。
この介護のせいで、私は、いくつかのキャリアをあきらめています。
現在は、母親は病気が悪化し、施設に入所している。
著者は経営者であるため、急な呼び出しに対応できる。
また、介護の理解が深まったことで、精神的な負担も(ほとんど)なくなりました。
「母親にキャリアの邪魔をされた」という認識は「母親にキャリアの呪縛から解放してもらった」というものに180度変化しているのです。
妻子がおられるそうですが、妻子のことは記されていません。
印象に残った内容
酒井氏は優れたビジネスマンらしく、読みやすい本で、内容もとてもわかりやすいです。
章立てがしっかりしており、目次だけでも学ぶものがあります。
また、章の最後には箇条書きのまとめがあるので、忙しい方はそこだけ読んでも、ためになるかもしれません。
データの引用、科学的な概念の紹介などにより、説得力があります。
自立とは、依存先が複数に分散されている状態のことである。
私は、自立とは誰にも頼らずに自分の力で生きていくことだと思っていたので、到底そんなことが無理そうな人たちに対して「自立支援」という言葉が使われる場面を見聞きし、なんてひどいんだろう、と思っていました。
しかし、その認識は誤解であって、自立とは、
ただ一つの依存先に隷属(奴隷化)している状態から自由であることです。
優れた介護においては、要介護者は、この人がいないと死んでしまうという状態、すなわち特定の人への過度な依存が上手に避けられています。
そう言われると、なるほど「介護とは自立支援」だと納得しました。
「介護離職をすれば負担が減る」は間違い
介護離職したら、経済的、肉体的、精神的な負担が増えるそうです。
介護離職したら、それまで介護に協力してくれていた身内が身を引くという事態になりがちといいます。
「あの人が全部やってくれるだろう」と思われてしまうんですね。
その結果、追い詰められて虐待してしまうこともあるそうです。
施設での介護職による虐待のニュースが時々ニュースになりますが、家族による虐待の方が100倍も多いそうです。
虐待してしまう人の特徴
柴田益恵准教授の研究報告が挙げられています。
1 息子か夫である
2 要介護者と同居していたりして常時接触している
3 介護に関する知識が不足している
4 介護を助けてくれる人がいない
5 要介護者と過去になんらかの軋轢がある
虐待されてしまう人の特徴
1 要介護度が高い高齢者である
2 75歳以上の女性である
3 子どもの家族と同居している
4 生活が苦しい生活困窮者である
5 介護者と過去になんらかの軋轢がある
介護を家族で抱え込んだら危険なのだと思わされました。
研究者、林邦彦氏によると、「介護とは、家族と介護サービスのプロによるチーム戦」であり、ビジネスのマネジメント能力と同じものが必要であるそうです。
情にからめとられて、お互いにとって幸せでない介護に走ってしまわないよう、気を付けようと思いました。
介護離職しても経済的になんとかならない
再就職の困難さや収入の激減は容易に想像がつくし、同居が介護離婚につながることも同様です。
それだけではなく、親の預貯金が並外れていて、両親ではなく、どちらかの片方の親だけが要介護な場合だけ経済的になんとかなるそうです。その場合でも、肉体的・精神的に大丈夫かどうかはわかりません。
つまり、普通はなんとかなったりしない、ということです。
介護離職は、
自分が生活保護を受給することになるほどリスクのある決断
とのことです。
「親孝行のために、介護に専念したい」という気持ちは長くても数年で消える
しかし、介護はたいてい数年では終わらないそうです。
以前、知人のプロの介護職の方(施設勤務)が、「介護はプロに任せてください。」と言っていたことを思い出しました。
また、仕事で理不尽な目にあっている時、ちょうど親が要介護になると、「親孝行したいし仕事を辞めて介護に専念しようか」と思ったりしますが、親の介護を理由に仕事から逃げようとしていませんか、と酒井氏は言います。
理不尽なことをされたという問題と、介護の問題もまた、切り分けて考えなくてはなりません。
介護は突然発生する。育児とは全然違う。
1 情報が足りない
2 考える時間が足りない
3 職場に相談できるネットワークがない
「介護は、始まってからネットで調べればいい」という考えは危険だそうです。
始まる前に、自治体のセミナーなどに行ってみるとよいそうです。
私も行ってみようと思いました。
介護離職を避けるためには、身体介護と家事をプロに頼む
介護離職を避けるための方法
優秀な介護のプロに人脈をつくる
介護が始まったら、
「介護離職を避けるためには、どのような介護サービスを利用すればよいのか」と相談すれば、かなりの確率で介護離職を避けることに成功できます。
ただし、介護離職をすすめるようなプロもいるので、要注意とのことです。
政府の方針としては、「介護離職ゼロ」だそうです。
自治体の窓口は介護情報を得るのにとても良いそうです。
優秀な介護のプロに出会うためには、介護者の家族会に参加する
なるほどと思いました。
在宅介護をする介護者の64.5%が抑うつ状態というデータがあるそうです。
特に男性は、介護を抱え込みやすく、相談をしない傾向があるので注意
法定の介護休業制度があっても、長期の休みは取らない
長期間休んでしまうと、復帰しにくくなるからとういうことです。
「介護を自分の人生の一部として肯定するために」
親が認知症になった時のために、親に対する理解を深めておく
たとえ親が認知症にならずに亡くなったとしても、親の人生をもっと知っておいたら良かったと思います。
人生に選択肢がある状態を維持する
介護離職するしかない、と思いつめず、介護のプロに介入してもらうことです。
選択肢がなくなったときは、生活保護を活用することを考える
と酒井氏は言います。
まとめ
依存先を複数に分散とか、追い詰められた時に問題を切り分けずに決断するのは危険とか、選択肢がある状態を維持とか、介護のみならず、人生にあてはまることが多く、人生について考えさせられました。
私はビジネスパーソンではなく、無職主婦ですが、自分自身が病気で、親が遠距離でつぶれることなく行き来できる距離にいないので、この本は役に立ちました。
幸い時間はあるので、介護に関する知識を得ようと思いました。
酒井氏関連サイト