「母」であるということは、昔から日の当たる女性のあり方であり、子育てに関する情報は世の中にあふれています。
その反面、「子どもがいない」という人生については、大っぴらに語られることがありません。
いや、様々な分野で功績を挙げた著名な女性たちの中には、子どもがいないという事例がいくつも思い浮かべられますが、そういう特殊例ではない女性たちはいったいどんな感じなのか、とにかく情報が少ないのです。
そんな中、2016年と2018年に、子どものいない女性の実態を記した2冊の本が出版されました。
香山リカ『ノンママという生き方 ~子のない女はダメですか?~』と、くどうみやこ『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』です。
この2冊の本を読んだ感想をシェアしたいと思います。
子どものいない女性は4人に1人、将来的には3割に
両方の本で、子どものいない女性の割合が記されています。
感覚的に、ほとんどすべての既婚女性には子どもがいて、子どもがいない女性は、未婚女性を含めて10%ぐらいじゃないかと思っていたのですが、違うようです。
子どものいない女性の割合が25~30%、ということになってくると、少数派ではあるけど、決して無視できる人数ではありません。
子どものいない女性の中で、「最初から子どもは持たないと決めていた」人は8.2%、来世でも子どもを持たない人は7.1%
たまに報じられる一部の高齢男性政治家の発言を聞くと、子どものいない女性は、「勝手気まましたいから、子どもなんかいらな~い!」みたいな人たちだと思っているようですが、それは大きな誤解です。
そもそも、最初から「子どもは持たない」と決めている女性でも、そう思ってる人は少数派だと思います。
世間にそのような印象を与えるような言動をする子どものいない女性でも、それは演技で、見栄をはって、子どもを持たない内心のみじめさを隠してる人たち、いると思います。完全に私の想像ですが。
さて、本題に戻ります。
「とにかく子どもいらない」っていう人は、子どものいない女性の中でも、かなり少数派だということです。
世間の印象よりも相当少ないのではないでしょうか。
「子どもを産まなかった理由は千差万別」
これが、子どもがいない女性が連帯できない理由だと思います。
どうしても子どもが欲しかったのに恵まれなかった女性と、最初から子どもはいらない女性がつながれるはずがありません。
その間にも様々なグラデーションがあり、聞いてみないとわからないので、うっかり聞けないということになります。
また、「子どもを持てなかったかわいそうな女」と思われたくないがために、持たない選択をしたふりをしている女性もいるかもしれず、本当のところはますます外からはうかがい知ることができません。
くどうみやこ『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』には、子どもがいない女性13人それぞれのケースがのっていますが、一つとして同じ事情がありません。
子なしハラスメントのかわし方
くどうみやこ『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』第4章は専門家からの知識とアドバイスになっており、勇気づけられる内容です。
脳科学、不妊、母性、心理学、社会学の5ジャンルです。
また、各専門家から「子どもがいない女性への応援メッセージ」が記されており、子どもがいないことで応援なんかされたことなかったので、純粋に嬉しいです。
脳科学の黒川伊保子氏は、こう言ってくれます。
もし、子なしハラスメントで何か言われたら、「科学的でもなく、合理的でもない。頭悪すぎ」と見下していいです。そんなビジネスパーソンは出世しないし、そんな主婦も、ほどなく子どもになめられる。
子どもがいる女性と話が合わないのは、脳が違うので当然
子育て真っ最中の女性と話が合わないと、ママが正しく優れており、子どものいない私は間違っていて劣っているような気がしてダメージだったのですが、「脳が違うので当然」だったんですね。
子どものいない女性の脳も、ママとは違う方角で成熟するそうです。
優劣ではないんですね。
「子どもがいない人にはわからない」こともあり、また、「子どもがいる人にはわからない」こともあります。
母性は本能ではない
母性研究者の佐々木綾子氏によると、母性は本能でも生まれつきのものでもないそうです。
「母性本能」という言葉がありますが、人間には当てはまらないんですね。もっとも、動物の世界でも普通に育児放棄があると複数で聞いたことがありますが。
母性、父性を含めた親性は、子どものいるいない関係なく、誰もが学習や体験ではぐくまれるらしいです。
へー、全然知らなかった!
高齢者やペットのお世話、親しい友人のことを心配したりすることでも親性は高まります。大切なのは、相手の気持ちをおもんぱかり、大変だろうなと思う気持ちです。
それって、共感性とか思いやりとかでは?
この定義だと、子どもがいても親性がほとんどない人もいれば、子どもがいなくても親性が豊かな人もいることになりますね。
これからの時代は子どもの有無ではなく、どう生きてきたかで幸せ感が左右されていきます。
ここを読んで、子どもがいないからといって虚無的にならず、しっかり生きていこうという気にさせられました。
「子どもはまだ?」がストレスなら、その場をはずすのもあり
心理学者の安田裕子氏のアドバイスです。
「元気?」と聞かれて、病気だったら「ぼちぼちです」でかわせるけど、「お子さんは?」ときたら、「ぼちぼち」に該当する言葉がありません。いや、それで相手を煙に巻けるのかな??
それはともかく、「そっとその場をはずす」って、突然お手洗いに立つとかでしょうか。戻ってきたら、話題が変わってるとか。
「悪意なきハラスメント」が大きな部分を占めている
香山リカ『ノンママという生き方 ~子のない女はダメですか?~』
「子どもを持つことはすばらしい」という価値観があまりにも世間に浸透していること、またノンママ自身もその価値観を否定はしていないので、たとえ相手の言葉で傷ついても「そんな言い方、やめてください」と言い返せないことが理由と考えられる。
確かに、「子どものいない女性って神経過敏で嫌なんだから~。」とか、思われたくないです。
「目に見えないハラスメント」とは、世間の雰囲気がかもし出すプレッシャーをまじめなノンママたちが敏感に感じ取り、それによって生じる傷つきや苦しみのことだ。
そういうものがあるって本に明記されてるだけで、「わかってくれてるんだ」と癒される部分があります。
2冊の違い
くどうみやこ『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』の内容は、だいたいこんな感じです。
著者本人の事情、子どもがいない13人のケース、子どもがいない女性の意識調査(無記名ネットアンケート)、専門家の見解、著者による「子供がいない女性の人生を好転させる9つのヒント」
男性2名のケースがありましたが、お二人とも子どもがいてもいなくても、どちらでもいい既婚者たちでした。
香山リカ『ノンママという生き方 ~子のない女はダメですか?~』は、こんな内容です。
著者本人の事情、それぞれの事情、周囲や診察室で聞いた子どもがいない女性の内面。心理面での考察が深いです。実母との関係、著者による提言「連帯しよう」
くどうの本ではまったく触れられていなかった、子どもがいない原因が取り上げられいました。
「子どもがいない女性」という同じテーマですが、それぞれに違った内容があり、どちらも読んだ甲斐がありました。
まとめ
テーマがとても珍しいために、貴重な本です。
読んだ直後は、自分とまったく同じと思える事例がなかったので、多少期待外れでもやもやしましたが、少し時間が経って、レビューを書くために見直してみると、慰めや励ましになる箇所がいくつもあり、読んで良かったと思いました。
著者は二人とも、自分に子どもがいない事情を開示されていたので、すごいと思いました。私は、誰にも言いたくないし、聞かれたくないです。
それぞれ同じ視点も違う視点もあり、著者の性格の違いも大きく、2冊とも読むのがおすすめです。
子どものいない女性による、子どものいない女性のための本がもっと出版されてほしいものです。